インタビュー Vol.4 難民についてラジオで発信する 宗田勝也さん

©T. Iida
京都三条ラジオカフェ(FM79.7MHz)で「難民ナウ!」を制作している宗田勝也さん。ラジオ制作だけでなく、大学と社会の変革を地域から目指すプロジェクトに加わったり、「小さなメディアが地域社会の中でどんな役目を果たせるか?」をテーマに大学で非常勤講師をつとめたりと大忙しの宗田さん。幅広い活動をされている宗田さんにラジオ番組「難民ナウ!」について伺いました。

 

難民問題を身近に伝えたい そんな思いがラジオ番組に

―現在行っている活動を教えて下さい。

「難民ナウ!」を京都三条ラジオカフェ(FM79.7MHz)で制作しています。「難民ナウ!」は、毎週土曜日19時から6分間放送しているラジオ番組です。「難民問題を天気予報のように身近に伝える」をコンセプトに始めました。

―この活動を始めたきっかけは何ですか?

きっかけはいくつかあります。その1つが幼少期の経験です。家の事情で親戚の家に預けられ、家族が離ればなれになった時期がありました。その時に母がいることの意味を考えさせられました。また母から薦められて読んだ伝記「チャップリン」から学んだことは今の活動にも活かされているように感じます。「笑いで生きる勇気を与える。辛いときに笑いを活力にする」という考え方に共感を覚えました。

もう1つは私が20代後半だった時に起きた阪神淡路大震災です。何かしたいと思いつつ被災地に行くタイミングを逃がしたことから、何か出来たのではとその後よく自問自答しました。

難民について意識したのはたまたま知った難民セミナーに参加した時です。「自分が難民になったら?」という問いかけに、はっとさせられたんです。身近な家族に置き換えて考えた時に、遠いはずの難民問題がはじめて自分の事としてリアリティを持ちました。そのとき難民問題は「家族の問題」なんだと強く感じました。

―なぜラジオで発信しようと思われたのですか?

何かしたいと思ったとき、自分なりの手段を考えました。東野真著『緒方貞子 ― 難民支援の現場から』の中でメディアの持つ力について触れられていた事にも背中を押され、「小さくても発信ツールとしてのメディアを持ち、まず人とつながることから始めよう」と考えたんです。インターネットはまだ普及していない時で、思いついたのがラジオでした。ラジオなら日常生活に働きかけ、難民についてもより身近に伝えることが出来ると思ったんです。

社会見学で訪れた中学生と対話する宗田さん ©K.Soda

繰り返し伝えたらきっと周りの意識が変わるはず

―ラジオならではの良さは何だと思いますか?

「難民ナウ!」のコンセプトにもありますが、情報は繰り返すことによって身近になります。何かをしながら聴けるラジオは日常生活の中で浸透しやすく、人の意識もおのずと変わっていくのではと考えています。番組をどう作るか、誰にインタビューするかなどを真剣に考えながら番組を作り上げる作業も楽しいです。

―始めてみて周りの反応はいかがでしたか?

当初、「難民ナウ!」というタイトルが、ふざけているという批判を頂くこともありました。深刻な問題だからこそ何とか皆に関心を持ってもらい、難民問題を身近にしたいという自分なりの思いが込められています。

―やりがいを感じるとき

リスナーの方から「番組を聴いています」というメールを頂くときは本当に嬉しいです。時には厳しい指摘もありますが、反響があるのは大変ありがたいと感じます。

「難民ナウ!」学生スタッフ ©K.Soda

難民について伝える その先にあること

―今後の課題は何ですか?

番組を始めた当初は、難民について伝えることが主な目的で、聴き手がそのメッセージをどう受け取るかまでは考えていなかったんです。まずは伝えることが大事だと。でも今は、伝えるからにはそれを聴いた人に「何が出来るか」という提案まで出来ないといけないのではと思い始めました。

そこで立ち上げたのが「P782(Pな奴)プロジェクト」です。これは全国の大学生が難民を切り口にした取り組みを日本中で企画していくプロジェクトです。参加対象者は全国にある782の大学に所属するすべての学生です。これからこの活動がどのように展開して行くか自分でも楽しみです。

―宗田さんの好きな言葉、好きな本や映画などを教えて下さい。

好きな言葉は「シャイになった分だけチャンスは逃げてゆく」です。難民支援をしている学生団体J-FUN YOUTHの学生のひとりから聞いた言葉です。躊躇せずに一歩踏み込むと道が開けると常に考えるようにしています。どんな小さな情報でもだれかが必ず受けとってくれると信じて活動を続けています。

好きな映画はペドロ・アルモドバル監督の『オール・アバウト・マイ・マザー』です。映画館で14回観たほど好きです。母親への深い思いや、美しいバルセロナの情景に思わず映画に入り込みたくなりました。

 

子どもたちが家で安心して眠れる世界を・・!

 

難民を「応援する・される」の関係でなく「自分のこととして関わってゆくこと」が大事だと思うんです。そのためには、難民を助けるという感覚ではなく、「難民」の置かれた状況を見つめることによって自分の生き方を再考することが鍵になるのではないでしょうか。

夢は難民が世界からいなくなり「難民ナウ!」もなくなることです。そして国内外の子どもたちが、自分の家で安心して眠れるようになって欲しいと心から願っています。

取材日:2014年4月

 

プロフィール

1966年京都に生まれる。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。2004年からラジオ番組「難民ナウ!」を京都三条ラジオカフェで制作。日本UNHCR-NGOs評議会(J-FUN)のメンバー。龍谷大学、神戸親和女子大学で非常勤講師をつとめる。吉本新喜劇に5年間在籍したという経歴も持つ。