インタビュー Vol.9   難民映画祭字幕担当JVTA 藤田奈緒さん

毎年秋に開催しているUNHCR難民映画祭。今回は、第3回UNHCR難民映画祭から毎年ボランティアで字幕翻訳にご協力頂いている「日本映像翻訳アカデミー(JVTA)」の藤田奈緒さんにお話を伺いました。「UNHCR難民映画祭 字幕制作総合ディレクター」である藤田さん。字幕翻訳に込めるその思いとは・・・?

— 「日本映像翻訳アカデミー(JVTA)」はボランティアで難民映画祭の上映作品に字幕をつけて下さっています。

はい、字幕をつけることによって、より多くの方の理解につながるのなら・・・!という思いで第3回難民映画祭から毎年参加しています。

— 字幕翻訳とは、具体的にはどのような流れで行うのでしょうか。

まず、字幕制作用のソフトが入ったPCに映像を読み込み、セリフのどこからどこまでを1枚の字幕として出すかを決めます。そして「1秒につき4文字」という字数基準を念頭に置きながら翻訳していきます。スクリプト(台本)がある場合は、それを参照しながら日本語をあてていくんです。1つの作品につき、600~1000枚ほどの字幕をつけます。例えば今回字幕をつけた映画祭上映作品の『ソニータ』は1000枚を超える字幕をつけました。字幕データが出来上がったらスタジオで収録し、完成という流れです。字幕制作はチームを組み、それぞれが自分の担当箇所を訳し最後にそれを1つに合わせます。作品の長さにもよりますが、1本につき最短で2週間くらいかかります

 

難民について知ってもらいたい ―字幕に込める思い

— 現在藤田さんは「UNHCR難民映画祭 字幕制作総合ディレクター」としても活動されています。お仕事内容を教えていただけますか?

まず難民映画祭のラインナップが決まり、字幕が必要な作品が確認出来たらボランティアを募集します。ボランティアで字幕制作を担当するのは、「難民映画祭に関わりたい」という意欲のある人が多いです。毎年手を挙げてくれる人もいるんですよ!

JVTAを修了した翻訳者がチームを組み、時間をかけてすり合わせながら作業を進めます。

また大学生と一緒に字幕をつけることもあります。明星大学と青山学院大学には字幕翻訳を学ぶコースやゼミがあるので、学生を指導しながら字幕を完成させます。

— 難民映画祭で上映される作品に字幕をつける際、特に気をつけていらっしゃることなどはありますか?

世界で今起きている事実を伝える映画祭の作品を訳す際は、まず自分がその作品の背景を理解することが大切だと考えています。また、訳すときは字数制限を気にしつつ、観た人が少しでも理解しやすいよう情報を整理して出すことも心がけます。字幕を通して、そこに描かれている事実を知ってほしいという思いを込めて作業をしているんです。

また作品を理解する上で絶対に必要な要素を落とさないよう、緊張感を持って臨んでいます。

— これまでに藤田さんが携わった映画祭の作品の中で、印象に残っている作品は何ですか?

第10回難民映画祭上映作品の『アントノフのビート』は、明星大学の学生と一緒に翻訳をしたので思い出が詰まった1本です。背景を理解するのが難しく、話し合いを重ねながら適した言葉をあてていきました。(明星大学「映像翻訳フィールドワーク」による上映会の様子はこちら

また、同じく第10回難民映画祭で上映された『ヤング・シリアン・レンズ』の臨場感には圧倒されました。シリア紛争についてはニュース等で見聞きしていましたが、映像を通して伝わってくるシリア国内の過酷な状況に衝撃を受けました。

日本や日本人と難民との関わりという観点では『異国に生きる -日本の中のビルマ人』(第8回難民映画祭上映作品)と『ビルマVJ』(第4回難民映画祭上映作品)どちらも強く印象に残っている作品です。特に『異国に生きる -日本の中のビルマ人』は、私たちが暮らす日本社会に難民がともに生活しているということを強く意識させられた作品です。身近な人にもぜひこの作品を観てほしいとすすめました。

— そもそも藤田さんが映像翻訳をお仕事にしようと思われたのはなぜですか?

幼い頃から本が好きで、文章を書くのも好きでした。とにかく日本語が好きだったんです。中学生になって学校で英語の授業が始まりましたが、その時に興味を持ったのが洋画でした。日本語字幕の付いた作品を自宅で観るときは「字幕あり」「字幕なし」の両方で楽しみました。その頃から字幕翻訳を仕事にしたいと思うようになりました。

 

映像が「難民」をより身近な存在に

—今後、難民映画祭に期待すること、願っていることは何ですか?

難民について皆さんにより身近に感じてもらうためにも、日本で生活する難民をテーマにした作品が増えるといいなと思います。難民映画祭では、LGBTがテーマの作品なども上映されています。難民はもちろんですが、マイノリティとされる人々について映像を通して考える機会が今後もっと増えていけばと願っています。

取材日:2016年9月

 

プロフィール

藤田 奈緒(ふじた なお)
映像翻訳ディレクター 損害保険会社に勤めながら映像翻訳者としてキャリアをスタートしたのち、日本映像翻訳アカデミーの翻訳業務受発注部門(MTC)に所属。現在はUNHCR難民映画祭の字幕制作総合ディレクターを務めるほか、映画、ドラマ、リアリティ番組、ドキュメンタリー番組など幅広いジャンルのディレクションを手がける。

▼日本映像翻訳アカデミー(JVTA): 海外の映画、ドラマ、ドキュメンタリー、音楽番組、スポーツ放送、企業PR 映像など、字幕や吹き替え原稿を作成する、「映像翻訳」のプロを専門に育成している。ウェブサイトはこちら