気候変動と強制移動

気候危機は人類の危機です

気候変動の影響は多岐にわたります。
強制移動を引き起こすだけでなく、すでに避難を強いられている人々の生活環境を悪化させ、故郷への帰還を妨げることもあります。

難民の受け入れ先となる多くの地域では、安全な水など資源は貴重であり、さらに不足しています。
極度の暑さによる乾燥、異常な寒さや降水量などは作物や家畜の生育に悪影響をおよぼし、人々の生計の手段を脅かしています。
気候変動は生活に対する脅威をさらに深刻なものとし、既存の緊張関係を高め、紛争につながる場合もあります。

異常な豪雨、長期にわたる干ばつ、砂漠化、環境劣化、海面上昇やサイクロンなどの極端な現象の強度と頻度の増加に起因する被害により、すでに年間平均 2,000 万人以上の人々が故郷を追われ、自国内の他の地域への避難を強いられています。

気候変動や自然災害の影響で国境を越えた避難をせざるを得ない人々もいます。状況によっては国際的な保護を必要とするため、難民法や人権法は重要な役割を果たします。

2018 年 12 月の国連総会で国際社会から大きな支持を得て採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」でも、気候変動や環境劣化、自然災害と強制移動の要因がますます相互に影響し合っていることが言及されています。

UNHCR/Yousef Alhariri
ヨルダン・ザータリ難民キャンプで大雨の後、自転車で移動するシリア難民 © UNHCR/Yousef Alhariri
“私たちはいま、投資しなければならないのです。
気候変動によって起こりうる保護のニーズ、強制移動を減らすためにも。
次の災害まで待つという選択肢はありません”
フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官

この数年にわたり、世界では温暖化の記録を更新し続けています。

パキスタン、コンゴ民主共和国、サヘル地域での大規模洪水、アフガニスタン、マダガスカル、アフリカの角での過酷な干ばつの影響により、2022年だけでも、何百万人もの強制移動を引き起こす原因となっています。

気候危機は、この地球上のすべての人にとっての現実―。故郷を追われた人々が日々生き抜くための、安全かつ持続可能な解決策にも影響をおよぼしています。

エチオピア・アファール州で豪雨で浸水した土地をロバに引かれて移動するエリトリア難民 © UNHCR/Ruth Seifu

【気候変動と強制移動へのUNHCRの対応】

UNHCR は、主に以下の3 つの分野を通して、気候変動に対する行動計画を実施しています。

■ 法律と政策
・難民および災害・気候変動の影響により移動を強いられた人々に対する法的保護の強化
・国際社会への法的支援や法解釈に対する指針の提供
・故郷を追われた人々の権利に関する国際的な議論の促進

■ UNHCRの活動
・気候関連の危機、自然災害に対する予測や準備など対応能力の強化(パートナーシップの強化など)
・避難先での環境の悪化の軽減、故郷を追われた人、受け入れコミュニティに対する気候変動の影響への準備とレジリエンスの強化
・UNHCRの活動における物資のサプライチェーンの“グリーン化”の徹底

■ UNHCR環境社会配慮ガイドライン
・温室効果ガスの排出量の削減、環境負荷の最小限の抑制
・環境の持続可能性の向上

Overview of Strategic Plan for Climate Action 2024–2030

 

 

【気候変動の難民・国内避難民への影響とUNHCRの支援】

  • 2020年、中央アメリカとメキシコ南部で過去20数年で地域最悪の被害をもたらした自然災害、ハリケーン「エタ」により被災した約300万人に援助物資を届ける支援部隊を派遣しました。
  • 2019年3月、モザンビーク、ジンバブエ、マラウイを直撃したサイクロン「イダイ」により被災した難民の家族をより安全なシェルターに移送、テント、ビニールシート、衛生用品、安全な水を提供しました。
  • バングラデシュ南部のロヒンギャ難民キャンプの雨期のモンスーンによる嵐、洪水、地滑りの被害を軽減するための対応を行っています。
  • 自然災害に関連する理由以外で移動を強いられた人(難民、国内避難民、無国籍者を含む)も、気候変動の“ホットスポット(最前線)”と呼ばれる場所で暮らしていることが多く、再度の避難のリスクにさらされ、帰還に影響をおよぼしています。これは、世界で最も急速に人道危機が広まっている地域のひとつ、武装勢力による暴力により約300万人が国内外で避難を強いられているサヘル地域がまさに直面している現実です。人道危機の広がりにより、地域が直面する気候変動を含む課題への対応がさらに困難になっています。
  • 国内で避難を強いられ、故郷に戻ることができない人を保護し支援するために、UNHCRは「Global Protection Cluster」による支援を率いています。必要に応じて緊急支援チームを派遣し、登録、公的文書の作成、家族再統合、シェルター、衛生・栄養用品の提供などの支援を行います。
  • UNHCRは、世界的な政策プロセスへの参加を通じて、強制移動を引き起こす要因にもなっている気候変動に対して、故郷を追われた人を保護するための啓発活動を強化しています。2015年以降、Platform on Disaster Displacement(PDD)の常任組織とそのアドバイザリーグループのメンバーとして、各国政府とパートナー(IOMUNDRRUNFCCCWMOUNDP)などと連携を強化しながら、関連の課題の対応を行っています。
  • PDDは「ナンセン・イニシアチブ」「仙台防災枠組」「パリ協定」の運用に向けた、各国政府主導のイニシアチブです。政策会議、情報共有、啓発活動、事業支援、法律・規範、災害リスク軽減、気候行動、クリーンエネルギー、環境持続性など、最近の例ではWords into Action guidelinesの発行が含まれます。

「気候難民(Climate refugee)」とは?

難民とは、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた」人々と定義されています(「難民の地位に関する1951年の条約」)。また昨今は、政治的な迫害のほか、武力紛争や人権侵害などを逃れるために、国境を越えて他国に庇護を求めた人々を指すようにもなっています。

一般的に、気候変動の影響を受けた自国内の人々は、国境を越えた避難が必要なレベルに達する前に、国内での移動を強いられます。しかしながら、1951年条約の難民の定義、または各地域の難民に関する法律における広義な定義が当てはまる状況もありえます。たとえば、気候変動の影響が武装勢力の紛争や暴動と関係している場合などは、正当な難民申請の理由といえるかもしれません。

UNHCRはそのような申請に対する解釈の手引きとして、調査研究「In Harm’s Way」に基づき、2020年に国際的な議論を進めるために「Legal Considerations」を公開しました。その一方で、「気候難民」という用語をUNHCRは承認しておらず、「災害や気候変動の関連で移動を強いられた人々」とするのがより正確であるとしています。