パラリンピック難民選手団のホストタウンを務めた文京区。ドイツの姉妹都市に暮らす難民を支えようと2016年に難民支援に本格的に踏み出してから5年。UNHCRとの連携、そして難民支援の輪が着実に広がっています。
区民に広がった笑顔と共感
9月3日、パラリンピック難民選手団のホストタウンを務めた文京区が「パラリンピック難民選手団オンライン交流会」を開きました。区内の窪町小学校と指々谷小学校の児童、文京区オリンピック・パラリンピックこども新聞の子ども記者など130人以上が参加。パラリンピック難民選手団のイリアナ・ロドリゲス団長、同メディア担当のテディ・カッツさんと、オンラインで交流しました。子どもたちはUNHCR駐日事務所と国連UNHCR協会の職員による講義や質疑応答、競技のオンライン観戦を通じて、世界では8,240万人が紛争や迫害で故郷を追われ、同年代の子どもが時には一人で避難し、学校にも通えていないこと、また、難民であり障がいのある選手がどう逆境を乗り越えてきたかなど、多くのことを学びました。
その様子を特別な思いで見守っていたのは、ホストタウン登録の準備期間を含め、1年以上にわたって奔走してきた文京区アカデミー推進部スポーツ振興課の川﨑慎一郎課長です。この日の交流会は、“コロナ禍でも子どもたちと選手の交流の機会を何とか設けたい”という同課の強い思い入れによって実現しました。
文京区ではパラリンピック難民選手団の応援と難民問題に対する区民の理解促進に向け、ホストタウン事業としてさまざまな取り組みを行ってきました。その一つが“青い紙ひこうき” を使った活動です。東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、難民支援に携わる学生団体「Youth×UNHCR for Refugees」が難民アスリート応援企画として実施していた取り組みに賛同し、青い紙ひこうきを折り応援メッセージを書いてパラリンピック難民選手団に届けました。
紛争や迫害で故郷を追われた8,240万人にちなみ、目指していたのは8,200機の紙ひこうきを完成させること。区内の各種施設の協力や紙ひこうき制作ブースの特設により、1万を超える紙ひこうきが集まりました。「皆さんの不安がすばらしい勇気に変わることを願っています」「競技を楽しむ笑顔を楽しみにしています。がんばれ!」――パラリンピック難民選手団への心のこもったメッセージが添えられていました。
川﨑課長は「難民問題についての認識の程度は多様ですが、いずれの方も、母国を離れ、障がいやコロナ禍などの逆境を不屈の精神で乗り越えてきた選手の皆さんに心から寄り添い、あたたかい応援メッセージを送ってくれました。パラリンピック難民選手団の皆さんと直接は会えませんでしたが、できる限りの心の交流ができたと思っています」と手ごたえを語ります。
地域づくり・次世代育成に根差した難民支援
文京区が本格的に難民支援を始めたのは2016年。ドイツの姉妹都市・カイザースラウテルン市の難民施設向けに区内で寄付を募り、支援したことがきっかけでした。その後、 UNHCR駐日事務所や国連UNHCR協会との連携を通じて、難民のストーリーを紹介する写真展や映画祭、「世界難民の日」のライトアップなどに取り組み、2020年には世界の都市とUNHCRとの連携強化を目指す「Cities #WithRefugees」に署名し、難民支援への賛同を表明。こうした区の継続的な取り組みの上に、今回のパラリンピック難民選手団のホストタウン登録が実現したのです。
その背景には成澤廣修区長の強い思いがあります。「日本では難民への理解や支援がまだ十分ではありません。自治体として難民支援への賛同を表明することで、日本全国へ難民問題について啓発する一歩を踏み出したと考えています。とりわけ、子どもたちには世界の多くの人が戦争などで故郷を追われている事実を知り、難民問題への理解を深めてもらいたいと思っています」
また、文京区は8月にはホストタウン事業の一環として、国連UNHCR協会の講師を招いて、難民について学ぶ子ども向けワークショップを開催。パラリンピック難民選手団からのビデオメッセージも紹介されました。この会を主催した総務部総務課ダイバーシティ推進担当・増田密佳子課長は、「ホストタウン事業はスポーツの祭典だけではなく、そこに込められた平和や人権について学ぶ機会となり、難民は決して特別な存在ではなく、同じ一人の人であるということを知ってもらうきっかけになりました。難民について正しく知り、身近な問題として考えてもらえるよう、取り組みを続けていきたいと思います」と話し、同時に、誰もが個性と能力を発揮できる社会の実現に向け、自治体として引き続きジェンダー平等や人権尊重の施策を推進していきたいと述べました。
世界の8,240万人の故郷を追われた人々、そのうち障がいのある1,200万人の希望の象徴として東京にやって来たパラリンピック難民選手団。成澤区長は、「ホストタウン事業を通じて、区民の難民問題への関心が一層高まり、特に若い世代が難民について知り、課題に目を向けてくれたことは、文京区における“国際理解の促進”の大きなレガシーです。持続可能な開発目標(SDGs)の観点からもUNHCRとの連携を重視しています」と語ります。その言葉が見据える“誰一人取り残さない”世界の実現に向け、UNHCRは多様性の推進など地域社会づくりを担う自治体と手を携え、市民や幅広いアクターを巻き込みながら、難民支援の輪を広げていきます。