難民支援の持続可能性を目指して― グローバル・サウスでの日本の役割を議論
難民支援の持続可能性を目指して― グローバル・サウスでの日本の役割を議論

JIIAとUNHCR共催のシンポジウム「難民支援の持続可能性と解決策に向けて:日本の役割とグローバル・サウス」
2024年11月28日、日本国際問題研究所(JIIA)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)共催のシンポジウム「難民支援の持続可能性と解決策に向けて:日本の役割とグローバル・サウス」が開かれました。
このシンポジウムは、故郷を追われた人々の数が1億2,000万人を超え、難民問題がますます拡大・複雑化している現状を踏まえ、難民の約7割が低中所得国である「グローバル・サウス」と呼ばれる国々に避難している現実と必要な支援に焦点が当てられました。
冒頭、佐々江賢一郎JIIA理事長は、「国際社会は停戦の糸口の見えない紛争や気候変動といった困難に直面し、故郷を追われた人々への支援も限界に近づいている」と指摘。特に難民受け入れの約7割を占めているグローバル・サウスへの影響が深刻であるとし、国際社会による新たな枠組みが必要だと強調しました。また、日本政府が「人間の安全保障」の提唱国であること、また近年は「人道・開発・平和の連携(HDPネクサス)」のリード国でもあることにふれ、「本シンポジウムでは、故郷を追われた人々に対する日本の役割と持続可能な支援のあり方ついて議論を深めたい」と述べました。

佐々江賢一郎JIIA理事長

フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官
続いて、訪日中のフィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官が基調講演を行いました。
グランディ高等弁務官は、本シンポジウムのテーマである「グローバル・サウス」に関する議論は、現在の国際社会において極めて重要なテーマであると指摘しました。そのうえで「世界は今、平和の危機に直面している。このテーマには多くの課題が絡み合っており、国際社会全体での対応が求められる」と訴え、特に受け入れ国が難民を自国の公的サービスの対象に含めることの重要性を強調しました。
また、難民の約7割がリソースの乏しいグローバル・サウスに避難している現状について、難民問題の持続可能な解決には、政府のみならず、市民社会、NGO、民間セクターといった組織や分野をこえた協力が欠かせないと指摘。そのなかでも日本はUNHCRにとっても主要なドナー国の一つとして重要な役割を担っていることに触れ、人間の安全保障の提唱国である日本の強みを生かした協力の必要性を訴えました。
続くパネルディスカッションでは、ジャーナリストの榎原美樹さんのモデレートで、佐々江JIIA理事長、グランディ高等弁務官に加え、グローバル・サウスの中でも先進的な難民受け入れ政策を推進するコロンビアからアンヘラ・ドゥラン駐日コロンビア共和国臨時代理大使、日本で暮らすロヒンギャのカディザ・ベコムさんを迎えて議論を行いました。
グランディ高等弁務官は、2016年の就任以来、最も大きな課題として、世界各地での紛争激化に伴う人道危機の深刻化と国際的な協調の欠如を挙げました。「現代の世界は複雑に絡み合っており、難民問題は政治化され、政治家に利用はされても、難民や受け入れ側には解決策をもたらさない場合が多い」と指摘し、国家間の関係が時に状況の悪化を招くことがあり、協調は容易ではないと述べました。人道支援のリソース不足については、資金の限界があることを認めたうえで、「この状況が続けば、さらに多くの人々が支援を必要とする」と訴え、故郷を追われた人々に対する持続可能な支援体制を構築するためには、国際社会の連帯が必要だと強調しました。
続いて、ドゥラン臨時代理大使は、「かつて難民・移民が多く出ていたコロンビアが、今ではベネズエラから逃れてくる人々を受け入れる主要な国の一つとなっている。この変化に対応するためには、複雑な人の移動に柔軟に対応する取り組みが必要だ」と強調しました。さらに、コロンビアは国を挙げて法改正や民間セクターとの協力を積極的に進め、国籍取得や教育、社会統合に工夫を凝らしながら対応を進めているが、また、グランディ高等弁務官も「コロンビアは大規模な人の移動に対して体系的なアプローチで先駆的な取り組みを行っている」と評価しました。ドゥラン臨時代理大使は、「難民問題はすぐに解決するものでなく、私たちのような低中所得国のリソースは限られている。国際社会全体でのさらなる取り組みがカギとなる」と話しました。

アンヘラ・ドゥラン駐日コロンビア共和国臨時代理大使

ロヒンギャのカディザ・ベコムさん
難民を代表して登壇したカディザさんは、ミャンマーのロヒンギャ族としてバングラデシュに避難していた両親のもとに生まれ、2006年末に日本で難民認定を受けた夫を頼って来日しました。「19歳で来日し、日本での生活は今や人生の半分になった。大学に進学するという夢を日本でかなえたく、日本語もゼロからの勉強で、道のりは決して簡単ではなかった」と語りました。その中で、自分の人生を切り開いてくれたのはUNHCRの「難民高等教育プログラム(RHEP)」だったと述べ、「RHEPがなければ、自分の人生がどうなっていたか考えたくもない。今は、自分の経験を少しでも還元したいと、日本に住むロヒンギャの女性たちの就業や子どもたちの教育に関する支援取り組んでいる」と話しました。
これらの議論を受けて、佐々江理事長はコロンビアの寛容な受け入れ政策とカディザさんの教育への熱意に敬意を表し、「かつて高等弁務官を務めていた緒方貞子さんは、紛争が発生し人道支援が必要な時、“重要なのは難民の立場に立って支援を行うこと”と繰り返し強調していました」と振り返りました。また、人道支援は開発支援との連携なくしては完結せず、現在のHDPネクサスに関する問題意識も緒方さんが早くから持っていたとして、「日本経済の成長がかつてのようではない今でも、日本はその貢献の水準を維持する努力をすべきだ」と強調しました。
最後に、グランディ高等弁務官は、世界銀行のような国際開発金融機関が紛争に対して脆弱な状況に対応するために新たな仕組みをつくるなどの動きがあり、さまざまなアクターの難民支援に対する意識の高まりを確かに感じるとして、「この機会を逃さず、日本が引き続き国際社会でリーダーシップを執り、HDPネクサスのアプローチを推進していくことを強く勧めたい」と述べました。また、かつて緒方高等弁務官の時代に初めて、自衛隊を人道支援のためにアフリカに派遣したエピソードを引き合いに、日本が古くから持ち続けている国際的な使命感と平和への貢献、連帯への情熱を今後も大切にしてほしいと強調し、現在の紛争の連鎖が解消されることを強く願っていると訴えました。

パネルディカッションの様子