演じ、考え、対話する── 演劇ワークショップ『Play, Empathy』イベント報告
演じ、考え、対話する── 演劇ワークショップ『Play, Empathy』イベント報告
2025年11月に行われた『Play, Empathy』のイベントの様子
難民の背景をもつ転校生が、ある日教室にやってきたら——。あなたなら、どんな言葉をかけ、どう接しますか。異なる文化的背景や価値観を持つ「他者」と隣り合う社会で、私たちはどのように対話し、共に生きていけば良いのでしょうか。
『Play, Empathy(プレイ・エンパシー)』は、芸術文化観光専門職大学とUNHCR駐日事務所が連携し、演劇という表現を通して他者理解と対話を育むことを目的に制作されたワークショップです(くわしくはこちら)。
2025年11月30日、完成を記念し、ワークショップの中心となる短編映像『転校生が来た』の上映会とトークイベントが、映像制作を担当したマウンテンゲートプロダクション株式会社の主催で開催されました。演劇から学ぶ他者理解や教育・芸術の役割について、登壇者と参加者それぞれが、多様な視点から考えを深め合う時間となりました。
演じる体験を学びの中心に据えたワークショップ
第1部では、ワークショップの制作に関わった登壇者が、プロジェクトの背景や制作過程について紹介しました。
本ワークショップは、芸術文化と観光の両方を専門的に学べる日本初の公立大学として2021年に開校した芸術文化観光専門職大学と、UNHCR駐日事務所が協働して制作したものです。
その制作をリードしたのが、長年にわたり教育現場で演劇を通じた学びを実践してこられた、劇作家・演出家の平田オリザさんです。制作過程には、学生や教育関係者、映画監督、そして難民の背景をもつ方々など、多様な立場の人々が関わりました。それぞれの専門性や経験を持ち寄ることで、幅広い教育現場で活用できる教材を目指しました。
イベントの冒頭では、本プロジェクトをけん引し、脚本も手がけた平田さんがオンラインで登壇。長年の演劇教育の経験を踏まえ、ワークショップのタイトルにもなっている「エンパシー」について、「エンパシーとは、異なる立場や価値観をもつ人が、なぜその行動を取ったのかを理解しようとする態度や技術です。難民を“かわいそうな存在”としてではなく、同じ社会を生きる一人の人間として捉える視点が大切です」 と話しました。
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「どうすれば高校生たちに難民という存在を一人の人間として捉えてもらえるか、ということが一番大きかったと思います。そのために、難民の方に芸術文化観光専門職大学に来てもらって学生同士でディスカッションをしたり、UNHCR駐日事務所と繰り返し議論を重ねてきました」
続いて教材制作の背景として、UNHCRからは、難民というのはその人の一側面を示すものであり、私たち一人ひとりが多様な背景を持つのと同じであること。そうした一人の人間としての姿を描くことができる点に、演劇という表現の力があると説明しました。
また、映像監督として制作に携わった映画監督の深田晃司さんは、演劇的手法の意義について次のように話しました。
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「自分とは違う誰かを演じることで、その人が見ていた景色や感情を想像するようになります。演じる前と後では、物事を見る視点が確実に変わるのでは」
演じることは、他者の立場に立って考えるための“入口”になる──Play, Empathyでは、こうした体験そのものを学びの中心に据えています。
また、平田さんから、短編映像『転校生が来た』の撮影現場でのエピソードも紹介されました。『転校生が来た』では、俳優の二階堂ふみさんに主要な登場人物を演じていただいています。
「撮影に参加したのは、学内のオーディションで選ばれた学生たちです。限られた時間の中で稽古を重ねながら制作が進められました。学生たちにとって貴重な体験になりました。
撮影場所は豊岡総合高校で、高校の生徒さんにもエキストラで入っていただきました。作品を作る過程そのものが学びの場にもなっていたのではと思います」
撮影に参加した学生からは、「難民に関する知識を得ることができた」「演じるために調べようと思うきっかけになり、世界が広がりました」といった声が紹介されました。
▼ 演劇ワークショップ『Play, Empathy』紹介動画 ▼
支援と教育の現場から読み解く教材の力
第2部では、短編映像『転校生が来た』の上映後、教育や難民支援の現場に携わるゲストを迎えたトークが行われました。
国連UNHCR協会、そしてRHEP難民教育推進協会で活動する天沼耕平さんは、元社会科教員としての経験を踏まえ、作品を次のように振り返りました。
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「この30分の中に、難民をめぐる状況が、自然に織り込まれています」
また、紛争を逃れてきた若者たちが教育の機会を得るまでに直面する困難や、支援の現場で見てきた現実にも触れながら、「この教材をきっかけに、調べ、考え、表現し、アクションするところまで進んでほしい」と話しました。
続いて、さまざまな背景をもつ生活困窮者の住まい・医療支援に携わる武石晶子さんは、支援現場での実体験と映像を重ね合わせてコメントしました。
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「文化や背景を理解しないまま支援をしてしまうことは本当によくある。この作品は、そうしたズレに気づく“入口”としてとても良い教材だと感じました」
最後に深田監督は、映像表現の観点から「極端な悪役を描くのではなく、“理解しようとする日常”の中にある揺れや境界を描きました。難民を受け入れることは、相手を変えることではなく、私たち自身も変わっていくことだと思います」と話しました。
対話を通じた学びを育む
質疑応答では、「教室の中で、生徒が安心して話せる環境をどう整えるか」「教育や芸術は何ができるのか」といった問いが寄せられました。登壇者からは、人を難民や外国人などの属性ではなく一人の人間として尊重すること、時間をかけて対話する教育の大切さが共有されました。
Play, Empathyは「正解を教える」ものではありません。誰かの立場になって想像すること。その想像をもとに、言葉にし、考えること。そうしたプロセスを通して、多様な背景をもつ人とともに生きる社会を思い描く―そのためのきっかけを届ける教材です。
本イベントは、演じる体験を通して他者を想像することの意味をあらためて問い直す機会となりました。今後も本教材が教育現場をはじめとするさまざまな場で活用され、対話を基盤とした実践へと広がっていくことが期待されます。
▶演劇ワークショップ『Play, Empathy』の実施について
学校や地域で、対話を通じた学びを実践してみませんか。ご関心のある方は、実践者に向けた特設ページをご覧ください。