映画の中から難民問題を感じる~副高等弁務官役 スザンネ・シェアマンさん

山田洋次監督、後藤久美子さんと打ち合わせをするシェアマンさん(左)
© 松竹

現在、公開中の『男はつらいよ お帰り 寅さん』に登場するイズミ・ブルーナUNHCR上級渉外官(後藤久美子さん)。副国連難民高等弁務官に同行して東京に出張してきた際、かつて恋仲だった寅さんの甥、満男(吉岡秀隆さん)と再会する・・・というストーリーです。

劇中ではイズミの出張中の仕事の様子も描かれています。そのシーンはどのように作られたのでしょうか。イズミの上司を演じたスザンネ・シェアマンさんにお話を伺いました。

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今から約30年前、『男はつらいよ』シリーズのプロデューサーの方と、映画監督の成瀬巳喜男さんをテーマにした講演で知り合いました。そして、新作でドイツ語の先生役を探していると。私は映画の研究者で演技は素人だからと言ったんですが、大丈夫だからと背中を押してもらって出演しました。今振り返っても、現場の皆さんに大変なご迷惑をおかけしたと思います。

学生時代、映画を学問として勉強したいと思っていましたが、当時、そのようなコースを提供している大学は多くはありませんでした。いろいろ探す中で日本の早稲田大学に希望する専攻があることを知り、奨学金を受けて来日しました。映画の研究を通じで、新しい世界が開けていったのを覚えています。 『男はつらいよ』を初めて観たのは、大学の授業だったと思います。ゼミの先輩が「寅さんの夢」について分析し、発表していました。当時はもちろん、まさか自分が出演することになるとは思ってもみませんでした。

その後、20年前から明治大学法学部で教べんを執っています。法学部でなぜ映画?と思うかもしれませんが、アクティブラーニングで映画はとても効果があるんです。学生が自分たちで企画を立てて、外の人たちと交渉したり、インタビューをしたり・・・。そういったグループワークは、社会人になる準備として、とても良い勉強になるんです。たまに「いい映画を作りたい」と、夢中になりすぎる学生もいるんですよ。私は指導する立場ですが、学生から頼まれて出演することもあり、回数を重ねるにつれて少しですが演技のコツが分かるようになりました。本当は私の仕事場はカメラの前ではないんですけどね(笑)。

そんな私が、第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』でもご縁をいただきました。松竹の方からUNHCRの副国連難民高等弁務官役で適当な人が見つからないと聞き、オーディションに参加することになりました。「英語とフランス語が話せる」という条件があったのですが、実は両言語とも母国語ではないんです。日本語のコミュニケーションは問題ないので、監督やスタッフの指示が現場で確実に理解できるということは、決め手の一つだったかもしれません。

後藤久美子さん演じるイズミがUNHCR職員という設定だと知り、なるほどと思いました。山田洋次監督はこれまでも、作品の中にさりげなく社会問題を取り入れてこられています。ヨーロッパ出身の私にとって、難民問題はとても身近に感じられるもの。UNHCRももちろん知っていました。

世界の大きな問題を抱えている組織のナンバー2が務まるのか不安でしたが、山田監督、スタッフの皆さんと現場で相談しながら役作りを進めていきました。記者会見のシーンでは、世界の難民がいかにひどい状況に直面しているか、山田監督がその重要性を訴えながら説明してくださったのが、強く印象に残っています。

後藤さんは個人的に女優として昔から大好きで、実際にお会いしてもとても魅力的な方でした。映画のために一緒に頑張ろうと、いろいろ相談に乗っていただきました。

公開前のメディア向けの試写会で、UNHCRや難民問題についての質問はありませんでした。でもこれはまさに、山田監督の意図した通りだったのではないでしょうか。あくまでさりげなく。今の世の中で何が一番大切を考えてたどり着いたのが難民。山田監督の満州からの引き揚げのご経験も影響しているのでしょうか。これこそ日本中に伝えたいことだと、ご自身が思っていることなのだと感じました。

なぜ人間は故郷から逃げなくてはいけないのか、まずそれを考えることが大切ではないかと思います。ヨーロッパではみんな難民問題に何らかの意見を持っていいますが、日本ではあまり話題にされず、どちらかというとあまり関わりたくないという雰囲気さえ感じます。難民が多く発生している場所から、距離的に遠いことも関係しているのでしょうか。「困っている人は助けたい」という温かい心を持っている人はたくさんいますので、難民についての理解がもっと深まれば、支援の輪も広がっていくのではないでしょうか。

山田監督は、キャスト、スタッフ全員を心から大切にされる方で、その人間性、人情がまさに作品に表れています。そんな作品に参加できたことを本当に誇りに思います。学生は映画から入りやすいと思いますし、新作をぜひ観てもらって、日本で難民問題に対してできることを一緒に考えたいと思います。

UNHCRのナンバー2、副高等弁務官として難民の窮状を記者会見で訴えるシーン © 松竹