フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官:世界の人道危機の現状と日本の支援の重要性を訴え
フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官:世界の人道危機の現状と日本の支援の重要性を訴え
日本記者クラブで訪日の総括を行ったフィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官
フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は、10回目となる訪日(2025年10月13日~15日)を終え、日本記者クラブで総括の記者会見を行いました。2025年12月に任期を終えるグランディ高等弁務官にとって今回が最後の訪日となり、「これまでの感謝をお伝えするためにも、この訪問は重要だと考えた」と述べ、日本の長年にわたる寛大な支援に深い感謝の意を表しました。
グランディ高等弁務官は10年の任期を振り返り、「これほど多くの人道危機が同時に発生している時期はかつてなかった」と指摘。現在、故郷を追われた人の数は過去最高の1億2,000万人を超え、日本の人口に匹敵する規模となっていること、世界各地で状況が複雑化していることへの懸念を示しました。
現在、世界的にガザでの停戦合意に注目が集まる一方で、停戦はよろこばしい成果として維持されるべきだと述べつつも、ウクライナ、スーダン、コンゴ民主共和国、ミャンマー、アフガニスタン、ベネズエラなど世界各地では依然として深刻な危機が続いており、「こうした危機の存在も忘れないでほしい。UNHCRはこれらすべての地域で支援活動を継続している」と強調しました。
また、グランディ高等弁務官は、UNHCRをはじめとする人道支援全体を取り巻く深刻な資金危機と、その影響を受け苦境に立たされている人々の現状についても言及しました。2025年は特に厳しい財政状況にあり、これまで年間約50億ドル規模だった予算が、今年は約35億ドルにとどまる見込みであると説明。主な拠出国である米国、ドイツ、フランス、日本などによる対外支援が、現場での活動に深刻な影響を及ぼしていると指摘しました。グランディ高等弁務官は、各国が抱える経済的制約を理解しつつも、人道支援は世界の安定に直結することを強調しました。
一方で、新たな希望の兆しとして、昨年末の政権交代を経て紛争がほぼ終結したシリアの例を挙げました。これまでに近隣諸国から100万人以上が帰還し、国内避難民も150万人以上が故郷に戻っており、「政治的安定と国際的な支援があれば、人々は自然に帰還し、難民問題の解決にもつながる」と述べ、政治的行動と支援への重要性を強調しました。
今回の訪日では、日本政府や民間企業などの関係者と会談し、さまざまな意見交換を行いました。グランディ高等弁務官は、「日本との対話は建設的であり、世界各地で故郷を追われた人々を守り支援するために最善を尽くしていこうと話した」と報告。日本が推進する人道支援と長期的な開発支援を効果的につなげる「人道と開発と平和の連携(HDPネクサス)」のアプローチをはじめ、ウクライナやアフガニスタン、ミャンマーから逃れてきた人々の保護などを評価するとともに「日本は世界的にも重要な役割を担っており、今後の取り組みにも期待したい」と述べました。
最後に、自身の人道支援の分野での40年以上のキャリアを振り返り、「最もつらいのは、紛争や暴力によって傷つく人々を見る時だ。地震などの自然災害ではなく、人間が引き起こした悲劇だからこそ余計に胸が痛む」と語り、逆に、最も幸福な瞬間は「故郷に平和が戻り、人々が帰還できた時だ」とアフガニスタンやコートジボワール、シリアでの経験を共有しました。
「戦争や破壊はひどいものであり、私たちは決してそれに慣れてはいけないということを、伝え続けてほしい」と訴え、国際社会に困難な時こそ連帯を強める重要性をあらためて呼び掛けました。
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