アフガニスタンの女性が柔道に打ち込める環境をつくりたい(後編)

JUDOsの理事長でもある井上康生監督(中央)と光本健次国際担当師範
© UNHCR/Aiko M

アフガニスタンで柔道に出会い、2004年のアテネ五輪にアフガン女性初のオリンピアンとして出場したフリーバ・ラザイーさん。しかし、女性がスポーツをすることに否定的な意見も多い国で彼女に向けられる視線は厳しく、カナダに逃れることを決意します。

カナダで柔道の指導者としてのキャリアを歩みながら、自分の同じ境遇のアフガン女性の柔道家たちのサポートも続けてきたフリーバさん。今年1月、NPO法人JUDOsのイニシアティブにより、アフガニスタンから女性柔道家の招へいが実現することになりました。

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アフガニスタンから研修に参加する選手の推薦はフリーバさんに託されました。そこで彼女が連絡を取ったのは、恩師である柔道のコーチ。「日本で柔道ができる素晴らしいチャンスがある。誰か推薦してくれませんか」。

そして、「熱心で強い選手がいる」と選出されたのが、アフガン女性柔道家の若手期待の星の2人。「自分を守ることができるから柔道を始めた」「他のスポーツとは違う魅力がある」と話す彼女たちは、フリーバさんと同じように、柔道を続けることにさまざまな困難を感じていました。日本で研修の機会があると聞き、信じられないという思いと同時に、「絶対に参加したい!」と思ったと言います。発案者のフリーバさんは、2人のコーチとして帯同することになりました。

今年1月、日本で3人の指導を担当したのはNPO法人JUDOsの光本健次国際担当師範。「アフガニスタンの選手たちと稽古を共にすることで、世界のいろいろなところで柔道が行われているということ、必ずしも恵まれた練習環境にない選手もいるということを、学生や保護者にも伝えたいと思いました。彼女たちには、柔道はもちろんですが、日本ではいろいろなことを体験して、学んで帰ってほしい」。

2週間にわたる日本での研修は、柔道の歴史についての講義に始まり、東海大学柔道部の練習への参加、中学校や高校の柔道部の生徒たちとの交流など盛りだくさん。柔道の総本山、講道館も訪問しました。

そして、JUDOsの理事長でもあり、3人のあこがれだった井上康生監督にも会うことができました。「井上先生は私たちのヒーロー。先生のビデオを見て、ずっと内股などを勉強してきたんです」とフリーバさんは感動を隠し切れないようでした。

東海大学の武道館で稽古に励む3人

JUDOsは、現在日本オリンピック委員会(JOC)会長を務める山下泰裕さんが率いてきた前身の柔道教育ソリダリティーの時代から、10年以上にわたって世界各地の柔道家たちを支援してきました。

井上監督は「柔道を通じて培ったものをどう社会に還元していくか、それこそ柔道の究極の目的だと思っています。世界中、どこにいても、柔道着を着ていればみんなファミリー。私ができることは、全力でサポートしていきたいと思っています」と話します。最終日にはJUDOsから3人に、それぞれの名前入りの柔道着が贈られました。

日本を発つ前日、3人は少しも疲れを見せず、生き生きとした表情をしていました。「とてもエキサイティングな2週間でした。終わってしまうのがとても寂しい」と口をそろえます。

「“柔道するにはまず体をつくることが大切”という基本をたたき込まれました。日本では、ウォーミングアップ、打ち込み、乱取りの順番で稽古するのですが、アフガニスタンではその反対でした。でも日本での練習方法の方が、身体がよく動くことが分かりました。稽古はとても厳しかったけれど、アスリートとして大切なことをたくさん学びました」とフリーバさんは振り返ります。

講道館を訪問し柔道の歴史について学ぶ
JUODsの顧問でもある上村春樹館長と

「アフガニスタンに帰って、日本で学んだことをみんなに伝えたい」「日本で学んだことを生かしてワールドチャンピオンになるのが夢!」と、アフガニスタンから来た2人も目を輝かせます。

近年、柔道やスポーツをするアフガン女性は少しずつ増えてはいるものの、家族の反対や結婚などで、17、8歳になるとやめてしまう人が多いという現実があります。フリーバさんの夢は、アフガニスタンの女性柔道の指導者となり、彼女たちがより良い環境で柔道に打ち込めるように支援を続けていくことです。

「アフガニスタンの女性、そして難民の女性は弱い立場にあります。すでにたくさんの組織がさまざまな支援をしてくれていますが、これからはより実践的な支援も求められてくると思います。今回の東海大学でのトレーニングがまさにそうです」

そして、フリーバさんは訴えます。「それぞれ国の未来は女性たちにもかかっているのだから、ジェンダー平等の実現に向けてもっと投資してほしい。法的な立場、住んでいる地域にかかわらず、すべての女性がリスペクトされる世界になること。女性でもリーダーになり、教師になり、スポーツ選手になり、母として自分の経験を子どもに受け継いでいくことができる社会になること。それこそ、平和の実現に向けて大切なことです」。

フリーバさんは自分の夢の一歩として「GOAL – Girls of Afghanistan Lead」を立ち上げ、アフガニスタンの女性アスリートをカナダから応援し続けています。新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、アフガニスタンの道場でも練習が一時中断されたりもしましたが、どの選手も今できることに懸命に取り組んでいます。

みんながそれぞれのGOALを目指して、彼女たちの挑戦は続きます。

3人の名前が入った柔道着をプレゼント
学生や留学生、JUDOsのスタッフたちと

スポーツは競技の枠を超えて、人間が人間らしく生きるために、心や体を鍛える役割もあります。UNHCRはこれからもパートナー団体と連携しながら、難民をはじめ脆弱な立場にいる人たちがスポーツに打ち込める環境づくりに取り組んでいきます。